第4話では、シェーンブルン宮殿の「ベルグルの間」特別入場や、ホテル・ザッハーでのザッハトルテ購入といった、ウィーン観光の1日をお届けしました。第5話は、3日目後半から4日目朝までの記録。オーストリアを離れ、いよいよチェコへと国境を越えていきます。
目指すのは、世界遺産に登録されている中欧屈指の美しい街、チェスキークルムロフ。中世の面影がそのまま残る「絵本のような街」で一夜を過ごすという、周遊ツアーならではの特別な体験をお届けします。夕食では初めてのチェコ料理も味わい、翌朝はいよいよ音楽と芸術の都プラハへ――そんな旅の続きにご一緒いただけたら嬉しいです。
ウィーンからチェスキークルムロフへ|約230kmのバス移動
Zum Kellergwölbでの本場のウィーナー・シュニッツェルを味わった後、再びバスに乗り込み、次の目的地チェスキークルムロフへと向かいました。ウィーンからチェスキークルムロフまでの距離は、およそ230キロ。日本で言えば東京から浜松よりも少し先くらいまでの道のりで、バスで約3時間の移動でした。
オーストリアからチェコへ、また国境を越えて
オーストリアとチェコも、どちらもシェンゲン協定加盟国。第3話でハンガリー→スロバキア、スロバキア→オーストリアと国境を越えたときと同じように、パスポートチェックや入国審査はなく、バスは何の停止もなく国境を通過していきました。「気がついたらチェコに入っていた」というのが、シェンゲン圏内での国境越えの醍醐味ですね。
ただ、車窓から見える風景は、少しずつ変わっていくのが分かります。オーストリア側の整然とした田園風景から、チェコ側に入るとより深い森や丘陵が増えてくるような、微妙な変化。同じヨーロッパでも、国ごとに景色に個性があるのが、旅の楽しみのひとつだと感じます。
南ボヘミアの深い森を抜けて
チェスキークルムロフは、チェコの南ボヘミア地方に位置する街。プラハからは南に約180キロ離れていて、実はウィーンからのほうが近いという珍しい立地です。バスは、緑の深い森や、点在するのどかな村々を抜けていきます。「これから訪れる世界遺産の街は、どんな景色を見せてくれるのだろう」――そんな期待に胸をふくらませながら、車窓を眺め続けた3時間でした。
やがてバスは、深い森の中の道を抜け、ゆるやかに蛇行しながら小さな街の外れへと到着しました。いよいよ、憧れのチェスキークルムロフに足を踏み入れる瞬間です。
到着&チェックイン|ホテルへの道でビュースポットの初対面
世界遺産チェスキークルムロフに到着
バスがチェスキークルムロフの街外れに到着したのは、夕方近くの時間帯。ここから先はスーツケースを引きながら、徒歩で旧市街のホテルへと向かいます。石畳の道を、少しずつ街の中心部へと歩を進めていくたびに、周囲の景色が中世そのままの佇まいへと変わっていくのが感じられました。
チェスキークルムロフの旧市街は、1992年に「チェスキー・クルムロフ歴史地区」としてユネスコ世界遺産に登録された、中世の面影がそっくりそのまま残る特別な場所。ボヘミア南部の深い森の中に、ヴルタヴァ川がぐるりと蛇行しながら囲むように流れ、その内側に赤い屋根の家々がびっしりと並ぶ、独特の地形をしています。
ホテルへの道で出会った、絵本のような街の全景

ホテルへ向かう途中、街全体を一望できるビュースポットを通りかかりました。ここで見た景色は、私が今回のツアー全体を通じても、指折りの絶景として記憶に残っています。
視界いっぱいに広がるのは、赤茶色の瓦屋根がぎっしりと並ぶ旧市街の家並み。街をぐるりと囲むように蛇行するヴルタヴァ川。その中心にすっと立つチェスキークルムロフ城の色鮮やかな塔。そして街を取り囲む深い緑の森――。まるでヨーロッパの絵本の1ページから、そのまま飛び出してきたような景色でした。
「あぁ、これがチェスキークルムロフか……」――言葉を失って、しばらくその場に立ち尽くしてしまいました。写真では何度も目にしていた景色ですが、実際に自分の目で見ると、その美しさは何倍にも増して感じられます。ヨーロッパの中世の街並みが、まるでタイムカプセルのようにここに保存されているのだと、心の底から実感した瞬間でした。
カメラを取り出して、何枚もシャッターを切りました。旅の写真の中でも、ずっと大切に残しておきたい一枚となる、忘れがたい景色との出会いでした。
この街に、今夜は泊まる
ビュースポットを後にして、いよいよ旧市街の中心部へと下りていきます。日中はたくさんの観光客で賑わうチェスキークルムロフですが、多くの人は日帰りで訪れて夕方には去っていくのだそうです。この街に泊まれるというのは、とてもラッキーで貴重な体験――旅慣れてくるほど、そんな風に思える機会は減っていくものですが、周遊ツアーだからこそ実現できたこの一夜を、心から嬉しく感じました。
石畳の細い道を進み、赤茶色の建物のひとつに到着しました。今夜お世話になるホテルの前に立ち、これから始まる特別な一夜への期待に、胸が高鳴ります。
ホテル・Gold|趣のある広い部屋で世界遺産に泊まる
今夜お世話になるのは、旧市街の中心部にあるHotel Gold(ホテル・ゴールド)。石畳の道に面した、いかにもチェスキークルムロフらしい趣のある建物です。「世界遺産の街に泊まる」という体験そのものが特別なものですが、その舞台となる宿もまた、旅の思い出を深めてくれる大切な要素になります。
添乗員さんの手続きで、スムーズにチェックイン
ホテルに到着すると、添乗員さんがまとめてチェックイン手続きを済ませてくださいました。海外のホテルでは、フロントでの言葉のやりとりに緊張することもありますが、添乗員さん付きのツアーではそういった負担が一切ないのが、本当にありがたいところ。ルームキーを受け取って、それぞれの部屋へと向かいます。
私も一人参加・個室利用を選んでいたので、自分専用のお部屋に通されました。ドアを開けて中に足を踏み入れた瞬間、思わず声が漏れました。「わぁ、広い!」
趣のある、想像以上に広いお部屋
案内された部屋は、一人で泊まるにはずいぶん広い空間でした。中世の面影を残す街並みに調和した、木の温もりを感じる内装。落ち着いた色調の壁紙、しっかりとした造りの家具、ゆったりとしたベッド――どこを見ても、歴史ある街のホテルらしい趣が漂っています。
ヨーロッパのホテルは、部屋の広さや設備が本当にピンキリで、コンパクトな部屋に案内されることも珍しくありません。今回のような広々とした部屋は、ある意味ラッキー。「これから中欧屈指の絶景を楽しんで、この素敵な部屋でぐっすり眠れるなんて、なんて贅沢な旅なんだろう」――そんな気持ちが自然と湧き上がってきました。
身軽になって、いざ観光へ
スーツケースを部屋に置いて、荷物を軽くして、必要なものだけを持って観光に出発します。旧市街の中心にあるホテルなので、街歩きへの動線は抜群。ホテルを出て数歩歩けば、もうそこは中世の街並みの真ん中です。
添乗員さんと一緒に、チェスキークルムロフの旧市街散策のスタートです。1時間ほどの街歩きですが、この街のコンパクトさを考えれば、主要な見どころは十分に巡ることができる、ちょうどよい時間配分。「絵本の街」の中を実際に歩いて、隅々まで感じ尽くしたい――そんな気持ちで、私は最初の一歩を踏み出しました。
旧市街散策スタート|スヴォルノスティ広場を歩く
ホテル・Goldを出て、狭い石畳の路地を進んでいくと、ほどなくして街の中心にある広場に出ました。スヴォルノスティ広場(Náměstí Svornosti/ナームニェスチー・スヴォルノスチ)。チェスキークルムロフ旧市街の顔ともいうべき、街の中心広場です。
「調和」を意味する街のハートスポット
「スヴォルノスティ(Svornosti)」とはチェコ語で「調和」を意味する言葉。まさにその名の通り、パステルカラーの歴史的建造物に四方を囲まれた広場は、街全体の穏やかな調和が凝縮されたような場所でした。
広場を取り囲む建物は、淡いピンク、クリーム色、黄色、水色――どの一軒も少しずつ違う色合いで、それでいて全体としては不思議と統一感のある景観になっています。ブラチスラバのフラヴネー広場でも感じた、中欧の広場ならではの優しい色彩美。第3話で歩いたブラチスラバとはまた違った、より小さくて素朴な、絵本の中に迷い込んだかのような雰囲気を漂わせていました。
旧市庁舎とペスト記念柱

広場の一角に建つのが、白いファサードが目印の旧市庁舎(Radnice/ラドニツェ)。16世紀にルネサンス様式で建てられたもので、街の行政の中心を長く担ってきた建物です。ファサードには街と貴族の紋章が並び、こぢんまりした建物ながら格式の高さを感じさせます。
そして広場の中央にすっと立つのが、ペスト記念柱(疫病記念柱)。中欧の街の広場でよく見かける、17世紀から18世紀にかけて猛威をふるったペストで亡くなった人々を追悼し、疫病が去ったことへの感謝を込めて造られた記念碑です。彫刻の細部にまで彫り込まれた聖人像を見上げていると、この街の人々がどんな困難を乗り越えて今を築いてきたのか、その歴史の重みが伝わってきました。
石畳の広場に流れる、ゆるやかな時間
スヴォルノスティ広場は決して大きくはないのですが、その分アットホームな空気が流れていて、しばらく足を止めていたくなる場所でした。地元の人が広場のベンチでゆったり過ごしていたり、観光客がゆっくりカメラを構えていたり――大都市の広場のような慌ただしさは、ここにはありません。
「中世の街のリズムって、こういう時間の流れなのだろうな」――そんなことを感じながら、私も広場でしばし佇み、この場所の空気を胸いっぱいに吸い込みました。旧市街散策のスタート地点として、これ以上ないほど素敵な場所でした。
ヴルタヴァ川と橋|街に流れる癒しの水辺
スヴォルノスティ広場を後にして、細い路地を抜けていくと、キラキラと光を反射する水面が見えてきました。街の中をゆるやかに蛇行しながら流れるヴルタヴァ川(Vltava)。ドイツ語では「モルダウ」の名で知られる、チェコを代表する川です。
街を包み込むように流れる、絵になる川
ヴルタヴァ川は、チェスキークルムロフの旧市街をぐるりと囲むように蛇行して流れています。街を上空から見下ろせば、川がまるで「Ω(オメガ)」の文字を描くように旧市街を包み込んでいる独特の地形。この川があるからこそ、街は自然の要塞のような形になり、中世の面影がここまで完璧に保存されてきたのだと言われています。
川のほとりに立って、水面をじっと眺めていると、旅の慌ただしさがすっと引いていくのを感じました。歴史ある街並みの中を、悠然と流れ続ける水。「街を歩いていて川があるって、こんなに癒されるものなんだな」――そんな素朴な気持ちが、自然と胸に広がっていきました。
スメタナの「モルダウ」が生まれた川
ヴルタヴァ川といえば、多くの日本人が思い浮かべるのが、チェコの作曲家スメタナの交響詩「モルダウ」ではないでしょうか。学校の音楽の教科書にも登場する、あの流れるような美しい旋律。その曲のモチーフになったのが、まさにこのヴルタヴァ川なのです。
スメタナは、ヴルタヴァ川の源流から始まり、深い森を抜け、街を通り、大河へと成長していく様子を、音楽で表現しました。今こうしてチェスキークルムロフを流れるヴルタヴァ川を目の前にしていると、あの「モルダウ」のメロディが自然と頭の中に流れてくるようで、なんとも幸せな瞬間でした。
石造りの橋から眺める街並み

ヴルタヴァ川にはいくつかの橋がかかっていて、街の中を歩いていると自然と橋を渡る場面が何度もあります。石造りの古い橋から眺める街並みは、また格別の美しさ。橋の上に立って川の上流と下流を見比べてみたり、水面に映る建物のシルエットを楽しんだり――ここでしか味わえない、水辺の街ならではの景色を堪能しました。
橋から見上げた先には、街のシンボルであるチェスキークルムロフ城の姿も見えていました。川、街、そしてお城――三つの要素が一枚の絵のように収まって、まさに世界遺産らしい風景を作り出しています。
橋を渡り終えて、いよいよ次の目的地、そのチェスキークルムロフ城へと歩を進めていきました。
チェスキークルムロフ城|だまし絵が印象的な塔と外壁
橋を渡ってヴルタヴァ川の反対側に出て、少し坂道を登っていくと、街のシンボルとして高くそびえ立つチェスキークルムロフ城(Státní hrad a zámek Český Krumlov)にたどり着きました。ヴルタヴァ川の高台に建つこの城は、旧市街をぐるりと見下ろす、まさに街の主のような存在です。
プラハ城に次ぐチェコ第2の規模
チェスキークルムロフ城は、実はプラハ城に次ぐチェコ第2の規模を誇る、堂々たる城郭。13世紀に建てられた後、時代とともに増築が繰り返され、現在の姿になったのは16世紀から17世紀にかけて。かつてこの街を治めていたローゼンベルク家、エッゲンベルク家、そしてシュヴァルツェンベルク家という有力な貴族たちが、代々居城として整備を続けてきました。
敷地内には40以上の建物、5つの庭園、そして劇場やチャペルなど、実にたくさんの見どころがあります。今回のツアーでは時間の関係で外観のみの見学でしたが、外から眺めるだけでも十分にその威容が伝わってきました。
塔の色鮮やかな模様と、外壁の「だまし絵」

チェスキークルムロフ城といえば、街を見下ろすように立つ円筒形の塔が最大のシンボル。赤、黄、緑、そして白のカラフルな模様が塔全体を彩っていて、まるでおとぎ話に出てくる魔法の塔のようでした。中欧の他の街で見てきた塔――マーチャーシュ教会や漁夫の砦、聖マルティン大聖堂――とはまた違う、独特のポップな存在感が印象的です。

そしてもう一つ、私がこの城で最も心を奪われたのが、外壁一面を覆う「だまし絵」の装飾です。よく見ると、実際には平らな壁なのに、まるで石が積み重なっているかのように、あるいは窓枠の周りに彫刻が施されているかのように見えるのです。「これって、絵で描いてあるの……?」と、思わず壁に顔を近づけて確認してしまいました。
これは「スグラフィット」(Sgraffito)と呼ばれる、ヨーロッパの伝統的な壁面装飾技法。表面の白い漆喰を削って、下の色つきの層を出すことで模様を描くもので、遠くから見ると本物の彫刻や石積みに見えるという、まさに「だまし絵」のような効果を生み出しています。ルネサンス時代に流行した技法で、チェスキークルムロフ城はその代表作のひとつとして知られています。
他のお城とは違う、心に残った理由
ヨーロッパを旅していると、それこそ数え切れないほどの城やお屋敷を目にしますが、チェスキークルムロフ城はその中でも「他とは違う」と強く感じる、心に残る存在でした。カラフルな塔の模様、そして壁面のだまし絵――どちらも、他のヨーロッパの城で目にした厳粛でモノトーンな印象とは対照的で、遊び心と美意識が同居した、なんとも魅力的な姿だったのです。
外から城全体をぐるりと眺めて、じっくり写真を撮って、思う存分楽しんだあとは、いよいよ夕方の景色を楽しむために、街を見下ろすビュースポットへと再び向かいます。
ビュースポット再訪|「絵本の街」を見下ろす
チェスキークルムロフ城を後にして、坂道を登った先にあるビュースポットへと再び足を運びました。この街に到着したとき、ホテルへ向かう道すがら、初めて街の全景を目にした、あの絶景ポイント。旧市街を存分に歩いた今、もう一度この場所から街を見下ろしてみたかったのです。
歩いてきた街を、上から改めて眺める贅沢

ビュースポットに立って、街を見下ろすと、先ほどまで自分が歩いていた場所が、まるでミニチュアのように広がっていました。「あそこがスヴォルノスティ広場、あの塔がチェスキークルムロフ城の塔、あの橋を歩いて渡ったな……」――そんな風に、今まで巡った場所の位置関係が一気に頭の中で繋がっていきます。
到着してすぐに見たときには「絵本のような景色」という漠然とした感動だったのが、実際に街を歩いてから同じ景色を眺めると、今度は「あの路地はここに繋がっていたのか」「川はここでこう曲がっているんだ」といった、具体的な地理感覚と結びついた感慨に変わっているのです。旅の楽しみのひとつは、こうした「同じ景色との2度の出会い」が生む、感覚の深まりにあるのかもしれません。
日が傾いて、街に影が落ち始めた時間帯
夕方近く、太陽が少しずつ低くなってくると、街の一部にはすでに影がかかり始めていました。到着してすぐに眺めたときは、街全体が明るい光に照らされていましたが、この時間帯になると屋根や壁が日陰に沈み、写真映えするような明るい景色を撮るには、少し難しいコンディションだったのです。「この時間にもう一度、明るい光に照らされた街を撮りたかったな」――そんな正直な思いも、心の片隅に浮かびました。
もしこれからチェスキークルムロフを訪れる方に一つだけアドバイスを付け加えるなら、ビュースポットからの写真を撮るなら、日中の明るい時間帯が断然おすすめということ。日が傾き始めると、旧市街は谷間の地形もあって、思いのほか早く影に包まれてしまいます。到着したときにあらかじめ良い写真を撮っておくことをおすすめします。
とはいえ、目の前の景色そのものの美しさは、光の条件に左右されないもの。深い緑の森に包まれた「絵本の街」の風情は変わらず健在で、この場所に立って街を眺めているだけで、心が満たされていくのを感じました。「この街に泊まって、こうして夕方の時間を過ごせるなんて、本当にラッキーだな」――ふたたび込み上げてきた、旅人としての幸せな気持ちでした。
この景色を、心に焼き付けて
絵本のような街並み、癒しの川、カラフルなお城、そして夕方の柔らかな光――チェスキークルムロフのすべての魅力を、ぎゅっと凝縮して見せてくれるビュースポット。ここで見た景色は、今回のツアーの中でもとりわけ大切な旅の思い出のひとつとして、私の心に深く焼き付いています。
心ゆくまで景色を楽しんで、今度こそ本当に旧市街散策の締めくくり。この後は、お待ちかねの夕食タイム。初めての本格チェコ料理を、この街の中でいただけるという、また嬉しい時間が待っていました。
スヴォルノスティ広場近くのレストランで夕食|スヴィチュコヴァーとパラチンキ
ビュースポットからスヴォルノスティ広場方面へ戻り、夕食会場へ。案内されたのは、広場からほど近い場所にあるチェコの伝統料理レストランでした。木の温もりを感じる素朴な店内は、まさに中世の街並みに調和した雰囲気。チェコらしい旅の一夜を締めくくるにふさわしい、居心地のよい空間です。
まずは細麺入りコンソメスープ
最初に運ばれてきたのは、澄んだ色合いのコンソメスープに、細い麺と刻んだハーブを浮かべた一品。ウィーンのZum Kellergwölbでいただいたスープにも近い、中欧のフルコースの定番とも言える前菜です。
テーブルに置かれていたコースターに目をやると、「ČESKÉ BUDĚJOVICE (BUDWEIS)」の文字。これはチェコ南部の街チェスケー・ブジェヨヴィツェの名で、実は世界的に有名なビール「バドワイザー」の語源となった街。同名のオリジナルビール「ブドヴァル(Budvar)」を醸造している、チェコビールの聖地のひとつです。「明日プラハに向かえば、いよいよ本場のチェコビールを見る機会も増えるのかな」――そんな予感を胸に、スープを味わいながらメインを待ちました。
メインはチェコの国民食スヴィチュコヴァー

そしてメインは、チェコの国民食とも言える一皿スヴィチュコヴァー(Svíčková na smetaně)。牛肉をクリーミーな根菜ソース(にんじん、パースニップ、セロリなどを煮込んで濾したソース)で煮込み、ホイップクリームとクランベリーソースを添えた、いかにも東欧らしい伝統料理です。
皿の上には、たっぷりのオレンジ色のクリームソースと、パスタ(フジッリ)がふんわりと盛りつけられていました。中央には、真っ白なホイップクリームと真っ赤なクランベリーソースが添えられていて、色合いだけでも食欲がそそられます。
ひと口食べてみると、ソースは思っていたよりもマイルドで、根菜の自然な甘さがしっかり効いた優しい味わい。柔らかく煮込まれた牛肉と、ホイップクリームの軽やかさ、そしてクランベリーソースのほのかな酸味――これらが一皿の中で調和して、なんとも複雑で深みのある美味しさを生み出しています。「クリームと肉料理にジャムって、意外と合うんだ!」と、初めての組み合わせに感動しました。
デザートはチェコ風クレープ「パラチンキ」

デザートで運ばれてきたのは、香ばしく焼き上げたクレープにたっぷりのホイップクリームを添えた一品。これはパラチンキ(Palačinky)と呼ばれる、チェコやスロバキア、ハンガリーなどの中欧諸国で親しまれている伝統的なデザートです。
薄い生地の中には、フルーツジャムが忍ばせてあって、ホイップクリームと一緒にいただくと、上品な甘さが口の中いっぱいに広がります。フランスのクレープよりもしっとりとした食感で、素朴で温かみのある味わい。中欧の家庭で受け継がれてきたおやつという印象で、旅の締めくくりにぴったりのやさしいスイーツでした。
スープ、スヴィチュコヴァー、パラチンキ――初めてのチェコ料理はどれも印象的で、味の記憶と共に旅の一夜が深く心に残る夕食になりました。「絵本の街」で味わうチェコ料理、ぜひこれから訪れる方にも体験していただきたい特別な時間です。
翌朝|シンプルな朝食とプラハへ出発
世界遺産の街で迎える朝
翌朝、目を覚ますと、窓の外からは澄んだ空気の気配が伝わってきました。世界遺産の街で目を覚ますという、なんとも特別な朝。夜のうちに観光客が去った街は、日中とはまるで違う静けさを湛えているのだそうで、早起きしてもう一度散策に出るという選択肢も心をよぎりました。
結局、前日の観光と長距離移動の疲れもあって、朝の散策はせずにホテルの部屋でゆっくり過ごすことに。今思えば「早朝の街も歩いてみればよかったな」と少し悔やまれる部分ではありますが、無理せずに旅を楽しむのも、大人の一人旅のスタイルということで――。
7時頃、ホテル・Goldでのシンプルな朝食

7時頃、ホテルのレストランに下りて、朝食をいただきました。プレートに乗っていたのは、こんがりと焼き上げたベーコン、ふっくらとした目玉焼き、パリッと焼き目のついたウィンナーソーセージ、そしてバターをたっぷり使った香ばしいクロワッサン。飲み物にはリンゴジュースとコーヒーを選びました。
ハンガリーやオーストリアのビュッフェ朝食に比べると、品数も種類もぐっと絞られたシンプルな内容でしたが、小さなプチホテルらしい素朴さがなんとも心地よく、朝の始まりにぴったりの温かい食事でした。ヨーロッパのホテルは規模によって朝食スタイルも様々。こうした違いを味わえるのも、周遊型のツアー旅行の楽しみのひとつだと感じます。
「絵本の街」に別れを告げて、いよいよプラハへ
朝食を終えて、部屋に戻ってスーツケースをまとめ、チェックアウトの時間に。世界遺産の街での一夜は、あっという間に過ぎ去っていきました。「もう少しゆっくりしたかったな……」――そう感じさせるのは、旅の名残惜しさの証。それだけこの街が、心に響く場所だったということでしょう。
スーツケースを引いて、朝の石畳の道を歩きます。まだ観光客も少ない静かな時間帯、街並みは昨日の賑わいとは違う、しっとりと落ち着いた表情を見せていました。もう一度だけ振り返って、絵本のような街並みを目に焼き付け、バスに乗り込みます。
いよいよ、次の目的地はプラハ。中欧屈指の観光都市、そしてこのシリーズを通じてもとりわけ楽しみにしていた場所です。バスは深い森の中を北へ北へと進み、私は窓の外を眺めながら、プラハへの期待に胸を膨らませていきました。
まとめ|世界遺産の街で過ごした、忘れられない一夜
ウィーンからチェスキークルムロフへの移動、絵本のような街並みとの初対面、ホテル・Goldでの心地よい滞在、旧市街を歩いてスヴォルノスティ広場・ヴルタヴァ川・チェスキークルムロフ城を巡り、ビュースポットから街を見下ろした特別な瞬間、そして初めての本格チェコ料理――「世界遺産の街に泊まる」という体験の贅沢さと、その醍醐味を、ぎゅっと詰め込んだ第5話でした。
日帰り観光では味わえない、朝と夕方の街の表情。街の一部となって過ごす一夜の時間の流れ。チェスキークルムロフを訪れる機会があれば、ぜひ泊まりでの滞在を検討していただきたい――そんな気持ちを、あらためて胸に刻んだ滞在でした。
次回の第6話「4日目|プラハ歴史地区と本場チェコビール飲み放題」では、いよいよ中欧屈指の観光都市プラハへ。世界遺産の旧市街を巡り、旧市庁舎の天文時計、そしてアルフォンス・ミュシャのステンドグラスがある聖ヴィート大聖堂を訪ねる、シリーズを通じても格別に大切な一日をお届けします。中欧4カ国ツアー、ハイライトの回にどうぞご期待ください。
中欧4カ国周遊ツアー シリーズ全7話
本シリーズは、2017年5月にJTB旅物語で参加した「中欧4カ国周遊6日間」ツアーの記録です。準備編から最終話まで、ぜひ続けてお楽しみください。


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