第1話では、羽田からミュンヘン経由でブダペストに到着するまでの長い1日と、ホテルでの思いがけない出来事をお伝えしました。一夜明けて、ようやく中欧4カ国ツアー本編、世界遺産巡りが本格的にスタートします。
第2話は、2017年5月27日(土)の午前中。ハンガリーの首都ブダペストで、英雄広場、マーチャーシュ教会、漁夫の砦、くさり橋、聖イシュトヴァーン大聖堂と、ハンガリーが誇る名所を一気に巡ります。ドナウ川を挟んで広がる「ブダ」と「ペスト」の街並みは想像以上に美しく、青空のもとで見たブダペストは今でも心に残る景色です。半日でこれだけの世界遺産に出会えた感動を、たっぷりとお届けします。
ホテルでの朝食|「JÓ REGGELT!」で迎えるハンガリーの朝
長旅の疲れも、ひと晩眠ればだいぶ回復します。気持ちを切り替えて、ホテル1階のレストランで朝食をいただきました。
朝食はビュッフェスタイルで、ヨーロッパのホテルらしい定番のラインナップでした。ハム、チーズ、スクランブルエッグ、ソーセージ、サラダ、ヨーグルト、各種パン――どれも素朴で温かみのある味わいで、長旅で疲れた身体に染みわたります。特にチョコレートが入ったクロワッサンのようなパンは、サクサクとした食感とほのかな甘さがたまらない美味しさでした。
飲み物はグレープフルーツジュースとコーヒーを選びました。コーヒーは少し濃いめで、しっかり目を覚まさせてくれる味わいです。
紙ナプキンに書かれた3言語の「おはよう」

食事中、テーブルに置かれていた紙ナプキンに目が留まりました。「JÓ REGGELT!(ヨー・レッゲルト)」「GUTEN MORGEN」「GOOD MORNING」と3つの言語で「おはよう」が書かれていて、可愛らしい朝食のイラストも添えられています。
ハンガリー語、ドイツ語、英語。多くの観光客が訪れるハンガリーらしい、心遣いを感じる演出でした。ハンガリー語で「JÓ REGGELT!」と挨拶するのは、なかなか発音が難しそうですが、地元の言葉に触れられるのは旅の小さな楽しみです。ホテルの細やかなおもてなしが伝わってきて、前日の出来事で少し沈んでいた気分が、ふっと軽くなった瞬間でした。
たっぷりの朝食でエネルギーを補給したら、いよいよ観光に出発です。9時、ホテルのロビーに集合してバスに乗り込み、ブダペストの世界遺産巡りがスタートしました。
9:00観光スタート|英雄広場へ
9時、ホテルのロビーに集合してバスに乗り込み、いよいよブダペスト観光のスタートです。今日からは現地ガイドさんが同行してくださり、添乗員さんとの二人三脚で名所を案内していただきます。専門の知識を持ったガイドさんの解説を聞きながら巡れるのは、団体ツアーの大きな魅力のひとつです。
最初の訪問地は英雄広場(Hősök tere/ヘーシュ―ク・テレ)。ペスト側の中心部から少し北東に位置する、ブダペストでも有数のフォトジェニックなスポットです。
ハンガリー建国1000年を記念して造られた広場
英雄広場は、1896年のハンガリー建国1000年を記念して造営が始められた、国を挙げての記念事業の中心地です。マジャール人がカルパチア盆地に定住したとされる896年から1000年目にあたるこの年、ブダペストではミレニアム博覧会が開かれ、英雄広場や地下鉄(ヨーロッパ大陸初の地下鉄!)など、さまざまな記念建造物が一気に整備されました。
広い石畳の広場に降り立つと、目に飛び込んでくるのは中央にそびえる高さ36メートルの記念柱と、それを取り囲む半円形の柱廊。一見してわかる、国家の威信をかけた壮大なスケールです。「これがハンガリーが世界に誇る記念碑なのか」と、思わず姿勢を正したくなる空気が漂っていました。
7部族長の像|マジャール人の祖先たち

中央の記念柱の根元には、馬に乗った7人の戦士の像が並んでいます。これは、9世紀末にこの地に定住したマジャール人の7つの部族の長たちを表したもの。中央でひときわ立派な姿で馬上にあるのが、初代大首長アールパード。ハンガリー王家の祖となった人物です。
馬に乗った7人の像が並ぶ姿は、まさに「英雄」という言葉そのもの。日本の歴史に置き換えるなら、神武天皇や源頼朝の像が広場の中心に立っているような感覚でしょうか。建国の物語が、絵巻物のように目の前に広がっていました。
半円形の柱廊に並ぶハンガリーの英雄たち
記念柱の左右には、半円を描くように2つの柱廊が広がっています。柱廊の中には、ハンガリーの歴史を彩った14人の歴代の王や英雄たちの像が、ずらりと並んでいました。聖イシュトヴァーン(初代国王)、マーチャーシュ王(後ほど登場するマーチャーシュ教会の名の由来)、ハプスブルク家との関わりを持った王たちなど、ハンガリーの歴史を学ぶ上で外せない人物たちです。
現地ガイドさんが一人ひとりの像を指しながら、その人物がどんな時代にどんな功績を残したのか、解説してくれます。耳に届くのは日本語の丁寧な説明。教科書に出てくるような出来事が、実際の像と結びついていく感覚は、ツアーならではの贅沢な体験です。
5月の青空の下、白い記念柱と歴代の英雄たちが見守る広場。「中欧の旅が、本当に始まったんだ」――そんな実感をようやく噛みしめた、観光初日の最初の場所でした。
マーチャーシュ教会|歴代王の戴冠式が行われた聖堂
英雄広場を後にして、バスはドナウ川を渡り、ブダ側の高台「王宮の丘」へと向かいます。次の訪問地は、ブダペスト観光のハイライトの一つ、マーチャーシュ教会(Mátyás-templom/マーチャーシュ・テンプロム)です。世界遺産「ブダペストのドナウ河岸とブダ城地区およびアンドラーシ通り」を構成する重要な建造物のひとつで、今回のツアーでは内部までしっかり見学する時間が組まれていました。
700年以上の歴史を持つ、王たちの聖堂
マーチャーシュ教会の起源は13世紀。長い歴史の中で改築や増築を重ね、戦争や政治情勢に翻弄されながらも、今日まで王宮の丘に建ち続けてきた由緒ある教会です。正式名称は「聖母マリア聖堂」ですが、15世紀の名君マーチャーシュ1世がここで結婚式を挙げたことから、彼の名で広く知られるようになりました。
歴代のハンガリー王がここで戴冠式を行った場所としても有名で、ハプスブルク家の皇帝フランツ・ヨーゼフ1世とエリザベート(シシィ)も、ここでハンガリー国王・王妃として戴冠したという歴史を持っています。準備編でも触れたマリア・テレジア生誕300周年のアニバーサリーイヤーに、ハプスブルクの王たちが戴冠した聖堂を訪ねられたのは、感慨深いタイミングでした。
カラフルなタイル屋根と尖塔のシルエット

バスを降りて教会の前に立つと、まず目を奪われるのは天高く伸びる尖塔と、その横に広がる色とりどりのタイルで彩られた屋根です。緑、黄色、茶色のジグザグ模様のタイルが幾何学的に並び、青空のもとでキラキラと輝いていました。一般的な石造りの重厚な教会とは違う、軽やかで美しい外観に、思わず何度もシャッターを切ってしまいます。
このカラフルなタイル屋根は、19世紀末の大改修の際に施されたもの。ハンガリーの伝統工芸であるジョルナイ陶磁器の技術が使われていて、独特の光沢と美しさで知られています。職人の手仕事が、こうして100年以上経った今も街の風景を彩っているのは、本当に素敵なことだと感じました。
内部の壁一面を覆う、息を呑むような装飾

いよいよ教会の内部へ。一歩足を踏み入れた瞬間、思わず「わぁ……」と声が漏れました。
外の明るさから一転、薄暗い空間に目が慣れてくると、視界に飛び込んできたのは壁一面、天井まで覆い尽くす精緻な装飾。幾何学模様、植物文様、宗教画――どれもが鮮やかな色彩で描かれ、教会全体がまるで一つの巨大な絵画のようでした。これは19世紀末の大改修の際に、当時の建築家フリジェシュ・シューレクとフェレンツ・ロッツが手がけたもので、ハンガリーの民族的なモチーフが取り入れられているのが特徴です。
ステンドグラスから差し込む光が、装飾の上で柔らかく揺れています。荘厳でありながら、どこか温かみのある空気。歴代の王たちがここで戴冠した瞬間も、こうした光と色彩の中だったのだろうか――そんな想像が自然と広がっていきました。
世界中にたくさんの教会がありますが、マーチャーシュ教会の内装は、私が訪れた中でも特に印象に残るもののひとつです。装飾の細部から伝わってくる職人技と、空間全体を包み込むような色彩の豊かさ。「ハンガリーの宝物」と呼ばれる理由が、この場に身を置くだけで自然と腑に落ちる、そんな聖堂でした。
漁夫の砦|ドナウ川を見下ろす絶景スポット
マーチャーシュ教会から徒歩わずか数十秒。教会の北側にぴったりと隣接して建つのが、ブダペスト観光のもう一つのハイライト、漁夫の砦(Halászbástya/ハラースバーシュチャ)です。白い石造りの回廊と7つの塔が連なる、おとぎ話に出てきそうな美しい建造物。観光客が必ずカメラを向ける、まさに絶景スポットです。
「漁夫」の名前の由来
「漁夫の砦」という、少し不思議な名前。実はこの場所、中世にはドナウ川の漁師たちがこの一帯を守る役目を担っていたことから、その名前がつけられたと言われています。19世紀末から20世紀初頭にかけて、マーチャーシュ教会と同じ建築家フリジェシュ・シューレクが手がけ、現在の姿に整えられました。
砦と呼ばれていますが、実際に軍事的な防衛拠点として使われた歴史はなく、むしろ観光・展望のために造られた建造物です。シューレクは、王宮の丘から見下ろすドナウ川の絶景を、最大限に楽しめる場所として、この回廊と塔を設計したのですね。
7つの白い塔が表す「マジャール7部族」

砦には円錐形の屋根を持つ7つの白い塔が、横に並ぶように配置されています。この7という数字には意味があり、英雄広場でも登場した「マジャール7部族」を表しています。建国の物語が、ここでも建物の意匠に組み込まれているのが、ハンガリーらしいこだわりです。
塔と塔の間を結ぶ白い回廊は、まるで中世の城の城壁を歩いているかのよう。アーチの連なりの中を歩いていると、童話の世界に迷い込んだような気持ちになります。回廊の手すりに手を置いて、眼下に広がる景色を眺めるのが、漁夫の砦の正しい楽しみ方です。
ドナウ川とペスト側を一望する大パノラマ

そしていよいよ、漁夫の砦最大の見どころ――回廊から眺めるドナウ川とペスト側の街並みです。
視界いっぱいに広がるのは、ゆるやかに流れる青いドナウ川。その向こうには、ペスト側の街並みが整然と広がっています。一番目を引くのは、ドナウ川に面して堂々と立つハンガリー国会議事堂。とんがり屋根のネオゴシック様式の建物が、川面に映る姿はまさに絵葉書そのもの。「ブダペストといえばこの景色」と紹介される、あの有名な構図が目の前に広がっていました。
5月の青空に、白い砦、青いドナウ川、対岸の重厚な建物群。ガイドブックの写真でしか見たことのなかった景色を、自分の目で見ているという実感に、しばらく言葉を失ってその場に立ち尽くしていました。「来てよかった」――この一言に尽きる瞬間でした。
外観の見学のみでしたが、漁夫の砦の周辺はぐるりと歩くだけで十分に楽しめます。塔の中に入って有料の展望スペースまで上がる選択肢もあるそうですが、回廊からの眺めだけでもブダペストの魅力は十分すぎるほど伝わってきました。
レースのお店でお土産タイム|ハンガリーの伝統工芸に触れる
漁夫の砦を心ゆくまで眺めたあとは、ツアーに組み込まれているショッピングタイム。案内されたのは、王宮の丘の一角にあるDóm Folklór(ドーム・フォルクロール)というレース・刺繍専門店でした。お店の入り口には、ハンガリー伝統のレース作品や色鮮やかな花柄の刺繍が、まるでギャラリーのように飾られていて、足を踏み入れる前から心が躍りました。
ハンガリーの伝統工芸「ハンガリアン・レース」

ハンガリーは、世界的に知られるレース工芸の国のひとつ。中でも有名なのが、繊細な透かし模様が美しいハロシュ・レース(Halasi csipke/ハロシ・チプケ)や、色鮮やかな花柄が特徴のカロチャ刺繍(Kalocsai hímzés)。ハンガリーの民族文化を代表する手仕事として、長く愛されてきました。
お店の中に並んでいたのは、テーブルクロス、ランチョンマット、コースター、ハンカチ、ブラウスなど、レースや刺繍をあしらったさまざまな品々。特に目を奪われたのが、白いレースの土台に赤、ピンク、紫、青、黄色と色とりどりの花々を刺繍で散りばめた作品の数々。カロチャ刺繍特有の鮮やかな色彩は、見ているだけで気分が明るくなる魅力がありました。手作業で編まれたレースの一つひとつは、本当に細やかで美しく、ガラスケースに展示されている高級品は値段もそれなりに張ります。それでも、こうした伝統工芸品が現代まで受け継がれていることを思うと、ひとつひとつに込められた価値が伝わってきました。
ツアーならではの「お買い物時間」
ツアーで連れて行かれる土産物店は、ガイドブックには載らないけれど、現地の伝統工芸に触れられる貴重な機会でもあります。観光名所だけを巡っていたら出会えなかった商品との出会いがあるのも、添乗員付きツアーの面白いところ。「ここでしか買えないかも」と思える品があれば、思い切って手に取ってみるのも旅の楽しみ方のひとつです。
ハンガリーらしいお土産を探している方には、レース製品はおすすめの選択肢。小ぶりなコースターやハンカチであれば、お手頃な価格で持ち帰りやすく、自宅に飾ったり日常使いしたりするだけで、旅の思い出が鮮やかに蘇ります。
ショッピングタイムを終えて、再びバスへ。次は、ブダペストを象徴するもう一つの世界遺産――ドナウ川にかかるくさり橋を、車窓から眺める時間です。
くさり橋|車窓から眺めるブダペストの象徴
ショッピングを終えてバスに戻り、王宮の丘を下りていきます。次の目的地は、ペスト側の聖イシュトヴァーン大聖堂。その途中、ドナウ川を渡る橋からは、ブダペストの象徴ともいえるくさり橋(Lánchíd/ラーンツヒード)を眺める絶好のタイミングが訪れます。
ブダとペストを初めて結んだ歴史的な橋
くさり橋は1849年に完成した、ブダペストで最も古い橋です。それまで別々の街だった「ブダ」と「ペスト」を恒久的につないだ最初の橋で、この橋の開通が、後の両市統合(1873年)につながる重要な役割を果たしました。正式名称は「セーチェニ鎖橋」(Széchenyi Lánchíd)。橋の建設に尽力したハンガリーの政治家、セーチェニ・イシュトヴァーン伯爵の名を冠しています。
2つの石造りの橋脚と、それを繋ぐ太い鉄の鎖が橋桁を支える、19世紀の鉄橋技術を象徴する美しいデザイン。橋の両端には、堂々たるライオン像が4頭、橋を見守るように鎮座しています。長さ約375メートルのこの橋は、現在もブダペスト市民の生活道路として、また観光客にとってはドナウ川を渡るランドマークとして愛され続けています。
バスの車窓に広がる、絵葉書のような風景

バスが橋にさしかかった瞬間、車窓の向こうに広がったのはまさに絵葉書のような景色でした。眼下にはゆるやかに流れるドナウ川、その向こうには午前中に歩いたばかりの王宮の丘。ブダ城、マーチャーシュ教会の尖塔、漁夫の砦の白い塔が一望できる、ブダペスト観光のハイライトとも言える構図です。
そして手前にはくさり橋。流れるような曲線を描く鉄の鎖と、橋を渡る車や人々の姿。空には白い雲が広がり、ドナウ川には観光船が浮かんでいます。「あぁ、今まさに自分はブダペストの真ん中にいるのだな」――そんな実感がじわじわと湧いてくる、心震える瞬間でした。
バスの中からの撮影だったので、窓ガラスの反射も少し入ってしまいましたが、その分臨場感のある一枚になりました。走る車内からの撮影なので構図を選んでいる余裕はなく、ほぼ「シャッターを切れた瞬間にラッキー」と思いながらの撮影。それでも、ブダ側の世界遺産群とくさり橋が一画面に収まった、お気に入りの写真になりました。
夜のライトアップは次回のお楽しみに
くさり橋は夜になるとライトアップされ、ドナウ川に光の橋が浮かび上がる幻想的な姿になることでも有名です。「世界三大夜景」のひとつにも数えられるブダペストの夜景は、川面に映る橋と王宮の丘の明かりが、本当に美しいのだとか。
今回はツアーの行程上、夜のブダペストを散策する時間はありませんでしたが、いつかまた訪れる機会があれば、ぜひ夜のくさり橋も歩いてみたいと思っています。それは次の旅の宿題、ということで――。
聖イシュトヴァーン大聖堂|ハンガリー最大の教会
くさり橋でドナウ川を渡り、バスはペスト側の中心部へ。次の訪問地は、ハンガリーで最も格式高い大聖堂のひとつ、聖イシュトヴァーン大聖堂(Szent István-bazilika/セント・イシュトヴァーン・バジリカ)です。ここも内部までしっかり見学する時間が組まれていました。
ハンガリー建国の王、聖イシュトヴァーン1世に捧げられた聖堂
大聖堂の名前にもなっている「聖イシュトヴァーン」とは、ハンガリーの初代国王イシュトヴァーン1世(在位1000-1038)のこと。マジャール人を統一し、ハンガリー王国を建国した人物で、キリスト教を国教として受け入れたことから、後にカトリック教会から聖人として列せられました。ハンガリーの守護聖人であり、英雄広場の柱廊にも像が立っていた、まさに国の父とも呼べる存在です。
大聖堂の建設は1851年に始まり、完成したのは1905年。半世紀以上の歳月を経て、ハンガリーの威信をかけて造られた壮大な建築です。様式は新古典主義様式で、ペスト側の街並みの中で堂々たる威容を放っていました。
高さ96メートル|ハンガリーの「最も高い建物」のひとつ

大聖堂の正面に立つと、まず圧倒されるのが中央のクーポラ(円蓋)の存在感です。高さはなんと96メートル。これは、ドナウ川の対岸に立つハンガリー国会議事堂とまったく同じ高さで、ブダペストで最も高い建築物のひとつとされています。同じ高さに揃えられているのは、世俗権力と宗教権力の対等を象徴している、とも言われているそうです。
正面ファサードには2本の塔がそびえ、その間に金色の文字でラテン語の銘が刻まれています。重厚で威厳のある外観ですが、どこか親しみを感じる端正なバランス。ペストの街並みの中心に、ふさわしい風格の建物でした。
荘厳な内部空間と、聖イシュトヴァーンの「聖なる右手」

扉をくぐって聖堂内部に足を踏み入れると、ひんやりとした空気と、見上げるほど高い天井に包まれます。中央のクーポラの真下に立って、首を後ろに反らして天井画を見上げると、まるで天そのものに吸い込まれていくような感覚。マーチャーシュ教会のように装飾が壁一面を埋め尽くす華やかさとはまた違う、大空間そのもので魅せるタイプの聖堂です。
そして、この大聖堂で最も有名な「宝物」が、聖イシュトヴァーン1世の右手のミイラ。「聖なる右手」(Szent Jobb/セント・ヨッブ)と呼ばれ、約1000年もの間大切に保存されてきた、ハンガリー・カトリック教会で最も神聖視される聖遺物のひとつです。専用の礼拝堂に安置されていて、ガラスケース越しに拝観することができました。
1000年以上前の建国王の身体の一部が、今もこうして国民に敬われ続けている――そのこと自体が、ハンガリーという国の歴史の深さを物語っているように感じました。日本で言えば、神武天皇や聖徳太子の遺物が今も大切に祀られているような感覚でしょうか。
歴史と信仰が静かに息づく聖堂で、しばし静謐な時間を過ごしたあとは、いよいよ午前の観光を締めくくる昼食タイム。次の目的地は、なんと大聖堂のすぐ近くにある素敵なワインハウスでした。
Domus Vinorumで本場ハンガリー料理の昼食
聖イシュトヴァーン大聖堂を出て、徒歩わずか数分の場所にあるのが、お昼ご飯の会場Domus Vinorum(ドムス・ヴィノルム)。ハンガリー語の副題には「borház(ボルハーズ/ワインハウス)」と書かれていて、その名の通りハンガリーワインに特化したワインハウス兼レストランです。
ワインハウスの入口で出迎えてくれた、ハンガリーワインのラインナップ
お店の入口の前には、ハンガリーワインの種類が黒板にチョークで書かれていました。Tokaj(トカイ)、Eger(エゲル)、Mátra(マートラ)、Badacsony(バダチョニ)、Szekszárd(セクサールド)――いずれもハンガリーを代表するワイン産地の名前です。中でも有名なのが、貴腐ワインの最高峰として知られるトカイ・アスー。「王のワイン、ワインの王」とも称される、ハンガリーが世界に誇る甘口ワインです。
ワインテイスティングのメニューも掲示されていて、3種類で8ユーロ、5種類で12ユーロといった価格設定。お酒好きの方なら、ここでテイスティングを楽しむだけでも訪れる価値がありそうなお店です。
アーチ天井のワインセラーで味わう特別な時間

お店の中に入って、思わず「わぁ……!」と声をあげてしまったのは、地下のダイニングフロアに案内されたとき。レンガ造りのアーチ天井が連なる、まるで中世のワインセラーがそのまま食事会場になったかのような空間が広がっていました。壁の凹みには無数のワインボトルが収められ、シャンデリアの柔らかな光に照らされて、ロマンチックな雰囲気を醸し出しています。
白いクロスがかかった長テーブルがずらりと並び、ツアー客が一斉に着席。観光地のレストランにありがちな慌ただしい雰囲気ではなく、しっとりと落ち着いた中で食事をいただける、思いがけない素敵な空間でした。「ブダペスト観光の昼食といえば、こういう場所で取らせてもらえるんだ」と、ツアーのありがたみを改めて感じた瞬間です。
本場のビーフグヤーシュとハンガリー料理
運ばれてきたのは、ハンガリーを代表する料理ばかり。最初の一品は、深い赤茶色をしたビーフグヤーシュ(Bográcsgulyás/ボグラーチグヤーシュ)。パプリカと牛肉を煮込んだハンガリー名物のスープで、辛さの中にも深いコクと甘みがあり、添えられた白いパンと一緒にいただくと、これがまたぴったり。長距離移動と午前中の観光で少し疲れた身体に、温かいスープが染みわたっていきました。
メインディッシュは、オレンジ色のマッシュ(おそらくパプリカで風味づけされたジャガイモかニンジン)の上に、ハンガリー風ミートボールが4つ並んだ一皿。サイドにはザワークラウト風のサラダが添えられていて、見た目にも色鮮やか。ミートボールは外側がしっかり焼けて香ばしく、中はジューシー。スパイシーな味付けで、これも白パンとの相性が抜群でした。
「中欧4カ国ツアー、初日の昼食でこんな本格的なハンガリー料理がいただけるなんて」――そんな満足感が、テーブルを囲んでいた皆さんの間にも広がっていたように思います。世界遺産巡りに加えて、その土地ならではの料理を味わえるのも、観光ツアーの醍醐味ですね。
まとめ|半日で世界遺産を5スポット巡れた贅沢な午前
2017年5月27日(土)の午前中、わずか半日でハンガリーを代表する名所をぎゅっと巡った濃密な時間でした。英雄広場で建国の物語に触れ、王宮の丘ではマーチャーシュ教会の精緻な内装と漁夫の砦の絶景に圧倒され、Dóm Folklórで伝統工芸の美しさに見惚れ、車窓からはくさり橋とブダ城の絶景を眺め、聖イシュトヴァーン大聖堂で建国王の聖遺物と対面しました。
そして昼食はDomus Vinorumのワインセラーで本場のビーフグヤーシュ。観光だけでなく、食事の場面でも「ハンガリーに来たんだ」という実感が深まる、充実の午前でした。添乗員さん同行のツアーだからこそ、これだけの密度で巡れたのだとつくづく感じます。
午後はバスでハンガリーを後にして、いよいよ次の国へ。次回の第3話「2日目後半|ブラチスラバ散策とウィーンへの移動」では、スロバキアの首都ブラチスラバの旧市街を歩き、そのあとオーストリアのウィーンへと移動する午後の旅程をお届けします。1日のうちに3カ国を移動するという、中欧4カ国周遊ツアーならではのダイナミックな展開、ぜひお楽しみに。
中欧4カ国周遊ツアー シリーズ全7話
本シリーズは、2017年5月にJTB旅物語で参加した「中欧4カ国周遊6日間」ツアーの記録です。準備編から最終話まで、ぜひ続けてお楽しみください。
- 準備編:ツアー選びの理由・費用・持ち物・一人参加の準備まとめ
- 第1話:1日目|羽田からミュンヘン経由でブダペスト到着まで
- 第2話(本記事):2日目前半|ブダペストの世界遺産を歩く(マーチャーシュ教会・漁夫の砦・くさり橋)
- 第3話:2日目後半|ブラチスラバ散策とウィーンへの移動※近日公開予定
- 第4話:3日目|ウィーン歴史地区とシェーンブルン宮殿「ベルグルの間」特別入場※近日公開予定
- 第5話:3日目夜〜4日目朝|世界遺産チェスキークルムロフに泊まる※近日公開予定
- 第6話:4日目|プラハ歴史地区と本場チェコビール飲み放題※近日公開予定
- 第7話(最終回):5〜6日目|帰国の旅路とツアー全体の振り返り※近日公開予定

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