【イタリア旅行記④】ピサ・フィレンツェ観光で叶えた念願|ラファエロ「小椅子の聖母」に会えた奇跡の1時間

ツアー旅行体験談

前回の記事では、ローマとバチカン市国での感動的な体験をお話ししました。今回はシリーズの中でも特に思い入れの深い3日目、ピサとフィレンツェの物語です。実はこの日、私はずっと前から密かに温めていたある個人的な目的を叶えることができました。その奇跡のような1時間のお話を、たっぷりお届けします。

3日目の朝、カレンツァーノを出発

3日目の朝はカレンツァーノのホテルで朝食をとり、バスで出発しました。この日の行程はピサとフィレンツェという、イタリア観光の大定番を一気に巡る濃密なスケジュールです。

バスに揺られながら、私の胸はいつも以上にドキドキしていました。なぜなら、フィレンツェでの自由時間にどうしても行きたい場所があったからです。でもその話は、後ほどたっぷりお話しします。まずはピサの街からご紹介しますね。

ピサの斜塔|想像より大きかった世界遺産

カレンツァーノから約92km、バスで揺られてピサの街に到着しました。目的地はもちろん、世界遺産ピサのドゥオモ広場です。

実物は想像よりずっと大きかった

世界遺産ピサの斜塔。今にも倒れそうで、何百年も立ち続けている不思議な塔

バスを降りて広場に近づくと、視界の向こうに見覚えのあるシルエットが現れました。そう、ピサの斜塔です。

正直に言うと、写真やテレビで何度も見ていたので、実物を見てもそれほど驚かないだろうと思っていました。でも実際に目の前にしてみると、想像よりもずっと大きかったのです。「こんなにスケールがあったんだ」と思わず見上げてしまいました。

そして、やっぱり傾いている——当たり前のことですが、写真と違って立体的に傾きを感じると、「本当にこの角度で立っているんだ」と不思議な気持ちになります。今にも倒れてしまいそうで、それでも何百年も立ち続けている。そんな不思議な魅力が、この塔にはありました。

登ってみたかったけど断念——次の楽しみに

実はピサの斜塔は、予約すれば上まで登ることができるのです。私も登ってみたいと事前に考えていたのですが、当日は混雑していて時間もなく、今回は断念することに。

階段を上がった先から眺めるピサの街並みはきっと素晴らしいだろうな、と思いながら、斜塔をぐるりと見上げるだけで終わりました。でも、次にイタリアを訪れるときの楽しみができたと前向きに考えています。旅の未練は、次の旅への動機になりますよね。

忘れてはいけない周囲の建物たち

斜塔だけじゃない、広場全体が世界遺産。白い大理石の大聖堂と洗礼堂が青空に映えます

ピサのドゥオモ広場には、斜塔だけでなく大聖堂(ドゥオモ)や洗礼堂カンポサント(墓地)といった建造物も並んでいます。これらがまた本当に美しくて、白い大理石の建物群が青空に映える姿は、まさに絵画のようでした。

多くの観光客は斜塔にばかり注目しがちですが、実は広場全体が世界遺産として登録されていて、周囲の建物たちもそれぞれに見応えがあります。私もカメラを構えて、大聖堂の彫刻や洗礼堂の丸いドームをじっくり眺めました。

「斜塔だけじゃない、広場全体が芸術なんだ」——そう気づけたのも、実際に訪れてみたからこその発見でした。

本場の味に感動した、3品コースの昼食

ピサ観光のあとは、お待ちかねの昼食タイム。この日の昼食は、前菜・メイン・デザートの3品コースという嬉しい内容でした。

前菜はラザニア。層になった生地にたっぷりのミートソースとチーズが絡んで、表面はこんがり焼き色がついています。フォークを入れると断面から湯気が立ち上り、ひと口食べると、濃厚なのにしつこくない、深みのあるミートソースの味わいが広がりました。日本で食べるラザニアとはまた違った、本場ならではの家庭的な美味しさです。

前菜のラザニア。表面のこんがり焼き色とミートソースの香りが食欲をそそります

メインはローズマリー風味のチキンとローストポテト。チキンはハーブの香りがしっかり効いていて、ソースがお肉にしっとり絡んでいます。添えられたローストポテトもほくほくで、シンプルながら素材の美味しさが際立つ一皿でした。

メインはローズマリー香る骨付きチキン。ほくほくのローストポテトが添えられています

そしてデザートはジャムの格子模様が美しいクロスタータ(イタリアの伝統的なタルト)。さくさくの生地に、甘酸っぱいアプリコットジャムがたっぷり。イタリアのおばあちゃんが焼いてくれるような、素朴で優しい味でした。

デザートのクロスタータ。格子模様のタルト生地にアプリコットジャムがたっぷり

3品とも本当に美味しくて、「本場イタリアの味ってこういうことなんだ」と一口ごとに感動していました。観光で疲れた体に、この温かい食事が沁み渡りました。

フィレンツェへ|花の都への期待

ピサを出発して、次の目的地フィレンツェへ向かいます。距離は約90km、バスで移動です。

バスの車窓から眺めるトスカーナの風景は、のどかで美しい田園地帯が広がっていました。オリーブ畑やブドウ畑、糸杉の並木道——まさに絵葉書のような景色です。でも私の心は、景色を楽しみながらも、これから訪れるフィレンツェであの場所に行けるかどうかでドキドキしていました。

フィレンツェ歴史地区観光|ルネサンスの中心地へ

フィレンツェには午後早い時間に到着し、現地ガイドさんと合流して約3時間の観光がスタートしました。

ドゥオモ(サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂)

フィレンツェのシンボル、ドゥオモ。白・緑・ピンクの大理石で装飾された外壁が美しい

まず向かったのは、フィレンツェのシンボルであるドゥオモ。白・緑・ピンクの大理石で装飾された外壁の美しさに、思わず立ち止まって見入ってしまいました。巨大なクーポラ(円蓋)を持つこの大聖堂は、ルネサンス建築を代表する傑作です。

シニョリーア広場とベッキオ橋

続いて訪れたのはシニョリーア広場。ここには彫刻がたくさん並んでいて、まるで屋外の美術館のような雰囲気でした。ミケランジェロのダビデ像のレプリカもここにあります(本物はアカデミア美術館にあるそうです)。

アルノ川に架かるベッキオ橋。橋の上に並ぶ宝石店の風情が、中世にタイムスリップしたような気分にさせてくれます

そしてベッキオ橋。アルノ川に架かるこの古い橋の上には、昔から宝石店や金細工の店が並んでいるそうで、今も変わらない風情を残していました。橋の上を歩いているだけで、中世にタイムスリップしたような気分になります。

ウフィツィ美術館|名作たちに圧倒される

ウフィツィ美術館。ここに来られただけで、フィレンツェに来た価値がありました

そしてフィレンツェ観光のハイライト、ウフィツィ美術館へ。

ここは世界屈指の美術館のひとつで、ルネサンス期の名作たちが惜しみなく展示されている場所です。ボッティチェリの「春(プリマヴェーラ)」や「ヴィーナスの誕生」、レオナルド・ダ・ヴィンチの作品、カラヴァッジョ、ラファエロ——教科書や美術書で何度も見てきた名作が、次から次へと目の前に現れます。

あまりの情報量に、正直なところ頭がついていかないほどでした。「これも本物」「あれも本物」と、一枚一枚の前で立ち止まっていたら何時間あっても足りません。現地ガイドさんの説明を聞きながら、重要な作品を中心に約2時間かけてじっくり鑑賞しました。

ウフィツィ美術館は、美術好きの方はもちろん、そうでない方でも一度は訪れる価値がある場所だと断言できます。それほどの名作が集まっていて、空間そのものに圧倒される美術館でした。

念願の「小椅子の聖母」へ|奇跡の1時間の始まり

さて、ここからが私にとってこの旅最大のハイライトです。

ずっと会いたかった一枚の絵

実は私には、イタリア旅行を決めた時からどうしても自分の目で見たい絵がありました。それはラファエロ・サンティが描いた「小椅子の聖母(Madonna della Seggiola)」という作品です。

丸い画面の中に、幼子キリストを優しく抱きしめる聖母マリアが描かれた、それはそれは美しい絵。ラファエロの描く聖母はどれも美しいですが、この作品の柔らかな表情、母子の温かい抱擁、丸いフォルムの中に完璧に収まる構図——何度写真で見ても、いつか本物に会いたいと願っていました。

この絵が所蔵されているのは、フィレンツェのピッティ宮殿のパラティーナ美術館。ツアーの行程には含まれていません。だから、フィレンツェの自由時間に自分で行けるかどうかが、私にとっての大きな賭けだったのです。

間に合うのか?ドキドキの作戦会議

ウフィツィ美術館での観光が終わり、ツアーはトイレ休憩のタイミングになりました。私は意を決して、添乗員さんと現地ガイドさんに思い切って打ち明けました。

「実は、どうしても見たい絵があるんです。ピッティ宮殿のパラティーナ美術館にあるラファエロの『小椅子の聖母』なんですが、今から行くことはできますか?」

すると現地ガイドさんが、時計をちらりと見て言いました。

閉館時間があるから、行くなら今すぐ向かって!

その言葉で、私の心は決まりました。添乗員さんも「了解です、集合時間までに戻ってきてくださいね」と快く送り出してくれて、私はその場で一人、ツアーから離脱させてもらうことになったのです。

ツアー旅行で自分だけ別行動をするのは、正直かなり勇気がいります。でも、ここで諦めたら一生後悔すると思いました。「ここまで来て会わずに帰るなんてありえない」——その気持ちに背中を押されて、私は急ぎ足でピッティ宮殿へと向かったのでした。

ピッティ宮殿までの道のり

アルノ川を渡った先にあるピッティ宮殿。念願の「小椅子の聖母」はこの中にあります

ベッキオ橋を渡ってアルノ川の南側へ。地図を頼りに、見知らぬ街を一人で早足で歩きます。心臓はバクバク、でも足はどんどん前に進みます。「間に合うかな、間に合うかな」と時計を何度も確認しながら、やっとの思いでピッティ宮殿にたどり着きました。

入口でチケットを購入し、広い宮殿の中を「小椅子の聖母」がある部屋を目指して迷いながら歩きます。

念願の対面——1時間の至福

そして、ついにその部屋にたどり着いたとき——。

壁にかけられた一枚の丸い絵。そこには、写真で何度も見てきたあの聖母マリアと幼子キリストが、柔らかな光の中で静かに佇んでいました。

本物だ。本当に、本物にたどり着けたんだ。

その瞬間、胸の奥から熱いものが込み上げてきました。何度も写真で見てきたはずなのに、実物はまったく違います。絵の具の質感、色の深み、マリアの瞳の優しさ——すべてが生きていて、今にも動き出しそうでした。

美術館に滞在できたのは、結局1時間ほどだったと思います。集合時間が迫っていたので、ゆっくり見てまわる余裕はありませんでした。でも、その1時間は私にとって宝物のような時間でした。小椅子の聖母の前に立って、じっくりと向き合えたことが何より嬉しくて、他の作品を見て回りながらも、何度も戻って眺めたのを覚えています。

フィレンツェの街で食べたジェラート

ピッティ宮殿を出て、集合場所へ急ぎ足で向かう途中——私はどうしてもフィレンツェでジェラートを食べたかったのを思い出しました。

小椅子の聖母に会えた興奮と、ツアーから離脱して一人で歩いている解放感、そして少し汗ばむくらいの陽気——ぜんぶが重なって、無性に冷たいジェラートが恋しくなったのです。

通りがかりのお店で、これも一人旅の思い出にと買い求めました。フィレンツェの街角でほおばるジェラートは、冷たくて、甘くて、疲れた身体にすっと染み込んでいきました。写真を撮り忘れたのが悔やまれますが、あの味と、石畳の上を歩きながら感じた自由な気持ちは、今でも鮮明に覚えています。

ツアー旅行の中で、ほんの短い時間だけ一人になって、自分のペースで街を歩いてジェラートを味わう——あの30分ほどの時間が、不思議と今でも心に残っています。

心残りは、ダビデ像に会えなかったこと

実はこの時、もう一つ行きたかった美術館がありました。アカデミア美術館——ミケランジェロのダビデ像の本物があることで有名な美術館です。

ピッティ宮殿からアカデミア美術館は少し距離があり、集合時間までにはとても間に合いませんでした。泣く泣くダビデ像は諦めて、ツアーの集合場所へ戻ることに。

「小椅子の聖母に会えただけで十分」と自分に言い聞かせつつ、ダビデ像は次にフィレンツェを訪れたときの楽しみとして取っておくことにしました。ピサの斜塔と同じく、これもまた次の旅への大切な宿題です。

3日目を振り返って|行動すれば叶うことがある

集合場所に戻ったとき、添乗員さんが「間に合ってよかったですね」と笑顔で迎えてくれました。私は心の底から感謝の気持ちでいっぱいでした。

この日学んだ一番大きなことは、「言ってみることの大切さ」です。もし私があのトイレ休憩の時に添乗員さんとガイドさんに打ち明けていなかったら、小椅子の聖母には一生会えなかったかもしれません。ツアー旅行だから無理だろう、と最初から諦めていたら、あの感動は得られませんでした。

ツアーに参加すると「決められたとおりに動かなければ」と思い込みがちですが、意外と柔軟に対応してもらえることも多いのです。もちろん全員が別行動できるわけではありませんし、添乗員さんやガイドさんの判断によります。でも、「どうしても行きたい場所がある」と正直に相談してみる価値は十分にあります。

行きたい場所があるなら、まずは声に出してみる。

この記事を読んでくださっている方の中にも、「ツアーだから自分の希望は叶えられない」と諦めている方がいらっしゃるかもしれません。でも、勇気を出して相談してみれば、案外道は開けるものです。私の経験が、そんな方の背中を少しでも押せたら嬉しいです。

この日の夜、ホテルに戻って

3日目の夜は再びカレンツァーノのホテル「デルタフローレンス」に宿泊。同じホテルに2連泊するので、荷物の移動がなくて楽でした。

実はこの日、夕食はとりませんでした。3日目の夕食はツアーのオプションに申し込んでいなかったのと、何よりお腹が空いていなかったからです。昼食の3品コースが満足感たっぷりだったこと、そして小椅子の聖母に会えた興奮で胸がいっぱいだったこと——「食事よりも今日の余韻を噛みしめていたい」という気持ちのほうが強かったのだと思います。

旅行中、感動が大きすぎて食欲が湧かないというのは珍しい経験でしたが、それくらい心が満たされた一日だったということですね。

ベッドに入っても、興奮でなかなか寝付けませんでした。「本当に会えたんだな」と、何度も心の中で繰り返しながら——。

次回は4日目、水の都ベネチアです。ゴンドラに乗ったり、サン・マルコ寺院を見たり、また違った魅力のイタリアをお届けします。お楽しみに!

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