「一生に一度でいいから、あの景色を自分の目で見てみたい」——テレビで観たクロアチアの湖に、私はずっと恋い焦がれていました。2014年5月、私はついにその夢を叶える旅に出ます。クロアチア・スロベニア・ボスニアヘルツェゴビナの3ヵ国をめぐる、8日間の周遊ツアーです。
記念すべき第1話の舞台は、旅の最初に訪れたスロベニアのブレッド湖。「アルプスの瞳」とも呼ばれる、それはそれは美しい湖でした。「海外は憧れるけれど、最初の一歩がなかなか踏み出せない」——そんな方に、まずはこの湖の透明な水と新緑をお届けしたいと思います。
初めてのルフトハンザ航空、機内は映画三昧

羽田空港から乗り込んだのは、私にとって初めてのルフトハンザ航空。ドイツのミュンヘン、そしてオーストリアのグラーツで乗り継ぐ、長い長い空の旅の始まりです。
じつはこの頃の私は、100ヵ国を目指す旅の資金を貯めるため、大好きな映画鑑賞をぐっと我慢していました。だからこの機内は、私にとって絶好の「映画館」。ここぞとばかりに、次から次へと映画を観て過ごしました。長時間フライトも、こうなると意外とあっという間です。旅の楽しみは、目的地に着く前からもう始まっているのですね。
グラーツからはバスに乗り換え、国境を越えてスロベニアへ。ホテルに着いたのは、なんと深夜2時頃。さすがにくたくたでしたが、「明日はいよいよあのブレッド湖だ」と思うと、疲れの中にも胸の高鳴りがありました。
朝のブレッド湖——鏡のような湖面と、浮かぶ小島

翌朝、湖畔に立った私は、思わず息をのみました。風のない朝の湖面は、まるで一枚の鏡。空の青と山の緑を静かに映し込んで、そのまん中に、白い教会を抱いた小さな島がぽつんと浮かんでいます。
5月上旬のスロベニアは、朝はまだひんやり。私は春・秋用のコートを羽織って湖畔を歩きました。持ってきて正解でした。そして何より、あたりを包む新緑の美しさ。芽吹いたばかりの若葉が、朝の光をあびてきらきらと輝いていました。
ブレッド湖は、氷河が削り出した湖なのだそうです。だからこんなにも澄んで、吸い込まれそうな色をしているのですね。「水と緑に癒される」——この旅で何度も味わうことになるこの感覚を、私はここで初めて知ったのでした。

伝統の手漕ぎ舟「プレトナ」で島へ

ブレッド湖に浮かぶ島へ渡る手段は、プレトナ(Pletna)と呼ばれる木製の手漕ぎ舟。桟橋には、屋根のついた可愛らしい舟が朝の光を浴びて並んでいて、その姿だけでもう絵になります。
このプレトナ、じつは1590年頃から続く由緒ある舟なのだそうです。平底の木造舟に、たったひとりの船頭さんが2本のオールで漕いで進みます。しかも漕ぎ手は、その昔に権利を許された限られた家系による世襲制。代々受け継がれてきた、誇りある仕事なのですね。そう聞くと、ゆっくりと進む一漕ぎ一漕ぎが、なんだか特別なものに感じられました。
湖上をすべるように進む舟。振り返ると、断崖の上にはブレッド城。前を見れば、近づいてくる島の教会。冷たい朝の空気の中、水面を渡る風が心地よく、私はただただこの景色に見とれていました。
99段の石段を上って、聖マリア教会へ

島に上陸すると、目の前に現れるのが有名な99段の石段。この地方には、花婿が花嫁を抱きかかえてこの階段を上りきると幸せになれる、という言い伝えがあるのだそうです。想像すると、なかなか大変そうですね(笑)。青空に向かってまっすぐ伸びる石段は、下から見上げると思わず気合いが入ります。
石段を上りきると、そこに建つのが聖マリア教会(聖母被昇天教会)。スロベニアで唯一という自然の島に建つ、白い鐘楼が美しい教会です。7〜9世紀頃に創建されたときはゴシック様式でしたが、その後2度の大地震を経て、17世紀末に現在のバロック様式へと改修されたと言われています。そびえ立つ時計塔は、青空によく映えていました。

一歩、教会の中へ足を踏み入れると——外の素朴なたたずまいからは想像できないほど、内部は黄金色に輝いていました。中央の主祭壇には、聖子を抱いた「湖の女王」聖母マリアの像。きらびやかな装飾に、しばし見とれてしまいます。じつはこの島、かつてはスラブ民族に伝わる愛の女神ジヴァの神殿があった場所とも言われ、昔から「愛の聖地」として親しまれてきたのだそうです。

願いの鐘——鳴らすと願いが叶う、けれど……

この教会のいちばんの見どころが、「願いの鐘」です。祭壇の前に、天井から一本の綱が垂れ下がっているのがわかりますか。この綱を引くと、教会の屋根にある鐘が鳴る仕組みになっていて、上手に3回鳴らすと願いが叶うと言い伝えられているのです。とりわけカップルで鳴らせば、永遠の愛が約束されるのだとか。
綱の先には、こんな仕掛けが。滑車と重い錘(おもり)でつながっていて、綱を引くたびに錘が動き、鐘が鳴る仕組みになっています。実際にやってみた方の話では「見た目以上に重くて、上半身を使って大きく引かないと鳴らない」のだとか。
さて、肝心の私はというと……じつは、鐘を鳴らしたかどうか、記憶がはっきりしないのです。順番待ちだったのか、時間の都合だったのか。改めて振り返ってみても、確か私は鳴らさなかったような気がします。せっかくの「願いが叶う鐘」だったのに、我ながらもったいないことをしました(笑)。もしこれから訪れる方がいらっしゃったら、ぜひ私の分まで、しっかり3回鳴らして願い事をしてきてくださいね。
ブレッド城は、湖から見上げるだけ

湖畔の断崖の上に、堂々と建つブレッド城。中世から続くこのお城は、湖のどこから見ても目を引く存在で、島の教会とならぶブレッド湖のシンボルです。
今回のツアーでは、残念ながらお城まで足を運ぶ時間はなく、湖の上から見上げるだけでした。切り立った岩山の上にそびえる姿は、それだけでも十分に絵になります。「いつか、あの城の上からこの湖を見下ろしてみたいな」——そんな小さな心残りも、また次の旅への楽しみとしてとっておくことにしましょう。
【最新情報】ブレッド湖の観光(プレトナ・教会・城)
※以下は本記事執筆時点で調べた最新の情報です。私が訪れた2014年当時とは料金や運航状況が変わっています。おでかけ前に必ず公式サイト等で最新情報をご確認ください。
- プレトナ・ボート乗船料:1人あたり€20前後(現地で船頭さんに現金払い。往復。決まった時刻ではなく、人数が集まり次第の出航です)
- 聖マリア教会 入館料:大人€12前後(鐘楼に上れる場合もあります)
- ブレッド城 入場料:€18前後/人
- 通貨について:スロベニアはユーロ圏です(クロアチアも2023年にユーロを導入しました)。現地払いに備えて、少額の現金を用意しておくと安心です。
次回は、地下に広がる神秘の世界へ
アルプスの瞳・ブレッド湖で、旅の初日から「水と緑の癒し」をたっぷりと味わった私。この日はこのあと、ヨーロッパ最大級とも言われるポストイナ鍾乳洞へと向かいます。湖の輝きから一転、こんどは地下深くに広がる神秘の世界。トロッコに乗って駆け抜ける、あの体験も忘れられません。
次回もどうぞ、私と一緒に旅を続けてくださいね。
クロアチア・スロベニア・ボスニア3ヵ国周遊ツアー シリーズ一覧
2014年5月、阪急トラピックスで訪れたクロアチア・スロベニア・ボスニアヘルツェゴビナ3ヵ国周遊の旅。全8回にわたってお届けします。
- 第1話|スロベニア・ブレッド湖と聖マリア教会(本記事)
- 第2話|ポストイナ鍾乳洞とアドリア海の街オパティア(近日公開)
- 第3話|世界遺産の街シベニクとトロギール(近日公開)
- 第4話|スプリットとモスタル ― クロアチア&ボスニアの世界遺産(近日公開)
- 第5話|アドリア海の真珠・ドブロヴニク(近日公開)
- 第6話|念願のプリトヴィッツェ湖群国立公園(近日公開)
- 第7話|首都ザグレブと帰国の途(近日公開)
- 【まとめ】クロアチア・スロベニア・ボスニア3ヵ国周遊ツアー8日間|ルート・費用・世界遺産6つの全記録(近日公開)

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