3日目は、いよいよ世界遺産の街が2つも登場する、贅沢な一日です。訪れるのは、壮麗な大聖堂で知られるシベニクと、中世の面影をそのまま残す小さな島の街トロギール。どちらもユネスコ世界遺産に登録された、ダルマチア地方の宝石のような古都です。アドリア海沿いをバスで南へ下りながら、私はこの日を心待ちにしていました。
新緑の車窓と、クロアチア風ブイヤベースの昼食
オパティアを朝8時に出発し、バスはひたすらアドリア海沿いを南下します。この日の移動はなかなかの長距離でしたが、退屈することはありませんでした。なにしろ、車窓の景色が素晴らしいのです。5月の新緑がまぶしく、目までいっしょに癒されていくようでした。ときおり青いアドリア海がきらめいて、「ああ、クロアチアに来たんだなあ」としみじみ感じ入ります。
そして、この日の昼食はクロアチア風のブイヤベース。魚をトマトベースのスープで煮込んだお料理で、黄色い付け合わせ(ポレンタでしょうか)が添えられていました。まずは肉のパテの前菜から始まり、じんわりと滋味深いメイン、そして最後は屋外の席でいただく、カップ入りの冷たいデザート。ひと皿ひと皿、旅の疲れをやさしくほどいてくれました。お酒を飲まない私にとって、こうした土地のお料理は旅のいちばんの楽しみです。



世界最大級の石造建築・シベニクの聖ヤコブ大聖堂
最初に訪れたのは、クロアチア南西部ダルマチア地方の古都シベニク。アドリア海に注ぐクルカ川の河口に開けた、天然の良港をもつ港町です。海の方から街を眺めると、赤い屋根の家並みの向こうに、大きなドームがそびえているのが見えました。あれが、この街のシンボル聖ヤコブ大聖堂です。

広場に立って大聖堂を見上げると、その白く輝くファサードの美しさに、思わず足が止まります。中央には、精緻な透かし彫りのバラ窓。この聖ヤコブ大聖堂、じつは木もレンガも一切使わず、すべて石だけで組み上げられた、石造建築としては世界最大級の教会なのだそうです。15世紀から16世紀にかけて、なんと100年もの歳月をかけて建てられました。

ゴシック様式からルネサンス様式へと移り変わる、ちょうど過渡期に建てられたこの大聖堂は、北イタリア・ダルマチア・トスカーナの文化が交わった証でもあり、その建築的な価値が認められて、2000年に世界遺産に登録されました。側面にまわると、独特のかまぼこ型(樽型)の屋根と、ルネサンス様式のドームが見えてきます。石だけで、これほど大きく、これほど複雑な建物を造り上げた——当時の人々の技術と情熱には、ただただ感嘆するばかりです。

扉を守るライオンと、71人の顔
大聖堂の入口には、2体のライオン像が扉を守るように鎮座し、その上には、なんとアダムとイヴの像が。恥ずかしそうに身をよじる二人の姿が、なんとも人間味があって印象的でした。ミラノ出身の建築家の手によるものだそうです。

そしてこの大聖堂のいちばん有名な見どころが、後陣(建物の裏側)の外壁をぐるりと囲む71体の人間の頭部の彫刻です。これらは聖人ではなく、なんと当時のシベニクの一般市民や有力者たちがモデルなのだとか。聖なる教会に、俗世の人々の顔を彫り込む——キリスト教施設に聖人しか飾れなかった時代には、実に画期的なことだったそうです。一人ひとり表情も違って、当時この街に生きた人々が、今も静かにこちらを見ているようでした。
いよいよ、中へ入ります。一歩足を踏み入れると、外の陽光とはうって変わって、ひんやりとした石の空間が広がっていました。第1話のブレッド湖の教会が黄金色に輝く内部だったのとは対照的に、ここは石そのものの荘厳さが際立ちます。見上げると、あの美しいバラ窓が、内側からもやわらかな光を届けていました。

とりわけ心を奪われたのが、洗礼室でした。天井は、まるでホタテ貝を広げたような、緻密な石の透かし彫りのドーム。中央の洗礼盤は、天使たちが支えています。石でここまで繊細な表現ができるのかと、しばし見とれてしまいました。

大聖堂をあとにして、旧市街の細い路地を歩きます。石畳の道は入り組んでいて、見上げれば市庁舎の時計塔。もし一人だったら、きっと迷子になっていたことでしょう(笑)。それもまた、中世の街並みがそのまま残っている証なのですね。

海に浮かぶ中世の島・トロギール
続いて向かったのは、シベニクからさらに南下したところにある古都トロギール。ここは、本土と島の間に浮かぶ小さな島に築かれた、なんとも珍しい街です。橋を渡って旧市街へ入ると、そこはもう中世そのまま。約2300年もの歴史をもつというこの街は、ギリシャ・ローマ時代の街の区割りの上に、中世から近世の建物が調和して立ち並び、ダルマチア地方でもっとも保存状態のよい古都として、1997年に世界遺産に登録されています。

街の中心の広場に立つのが、トロギールのシンボル聖ロブロ大聖堂(聖ロヴロ大聖堂)。13世紀に建設が始まり、完成したのはなんと17世紀。500年もかけて造られたので、ロマネスク・ゴシック・ルネサンスと、いくつもの時代の様式が混ざり合っています。高さ47mというその鐘楼を見上げると、首が痛くなるほど。青空にすっと伸びる姿が、実に堂々としていました。

広場のまわりには、ヴェネツィア支配時代の面影を残す建物や、赤い丸屋根の時計塔、ロッジャ(開廊)が並びます。ヤシの木とカフェのパラソルが、南国のリゾートのような明るさを添えていました。この日は天気に恵まれ、暑すぎず寒すぎず、散策にはうってつけ。広場のカフェでひと休みする人々の姿も、なんだかのどかで幸せそうでした。


広場を離れて路地へ入ると、こちらもシベニクに負けず劣らずの迷路。石畳の細い道が縦横にのびて、両側には中世そのままの石造りの建物が続きます。ふと見上げると、窓辺に赤い花。どこを切り取っても絵になる街でした。狭い路地の先に、ふいにアドリア海の青がのぞく——その瞬間が、たまらなく美しかったです。


【最新情報】シベニク・トロギール観光
※以下は本記事執筆時点で調べた最新の情報です。私が訪れた2014年当時とは料金や状況が変わっています。おでかけ前に必ず公式サイト等でご確認ください。
- 通貨について:クロアチアは2023年にユーロを導入しました。私が訪れた2014年当時はクーナ(kn)で、聖ヤコブ大聖堂の入場は15knでしたが、現在はユーロ表示に変わっています。
- 聖ヤコブ大聖堂(シベニク):入場は有料です。内部は写真撮影の可否など、その時々のルールに従ってください。
- 聖ロブロ大聖堂(トロギール):大聖堂・宝物庫の見学や、鐘楼への上塔は有料の場合があります。鐘楼からはトロギールの街並みとアドリア海が一望できます。
- 歩きやすい靴で:両街とも石畳の細い路地が多いので、歩きやすい靴がおすすめです。夏は日差しが強いので、帽子や水分も忘れずに。
次回は、皇帝の宮殿とボスニアの世界遺産へ
世界遺産の街を2つも巡った、充実の3日目。次回はいよいよ、ローマ皇帝の宮殿がまるごと街になったスプリット、そして国境を越えてボスニアヘルツェゴビナへ。美しいアーチ橋で知られるモスタルを訪ねます。3ヵ国めのボスニア、いよいよ登場です。
次回もどうぞ、私と一緒に旅を続けてくださいね。
クロアチア・スロベニア・ボスニア3ヵ国周遊ツアー シリーズ一覧
2014年5月、阪急トラピックスで訪れたクロアチア・スロベニア・ボスニアヘルツェゴビナ3ヵ国周遊の旅。全8回にわたってお届けします。
- 第1話|スロベニア・ブレッド湖と聖マリア教会
- 第2話|ポストイナ鍾乳洞とアドリア海の街オパティア
- 第3話|世界遺産の街シベニクとトロギール(本記事)
- 第4話|スプリットとモスタル ― クロアチア&ボスニアの世界遺産(近日公開)
- 第5話|アドリア海の真珠・ドブロヴニク(近日公開)
- 第6話|念願のプリトヴィッツェ湖群国立公園(近日公開)
- 第7話|首都ザグレブと帰国の途(近日公開)
- 【まとめ】クロアチア・スロベニア・ボスニア3ヵ国周遊ツアー8日間|ルート・費用・世界遺産6つの全記録(近日公開)

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