1|【プロローグ】冬のマルタを選んだ理由

ツアー旅行体験談

――「地中海の宝石」は、思っていたよりずっと近かった

「マルタ共和国」

正直に言うと、この国の名前を最初に聞いたとき、私は地図を思い浮かべることができませんでした。
イタリアの南にある小さな島国。地中海に浮かぶ、どこか神秘的な場所。
それくらいの、ぼんやりとしたイメージしかなかったのです。

それが少しずつ輪郭を持ち始めたのは、ある映画とテレビ番組がきっかけでした。


映画『トロイ』と、世界遺産番組がつないだ縁

ブラッド・ピット主演の映画『トロイ』。
古代ギリシャ神話を題材にした壮大な歴史映画で、荒々しい海岸線や石造りの街並みが印象的でした。
「このロケ地の一部が、マルタ共和国だと聞いたよ」

そんな何気ない情報を耳にしたとき、私はふと、画面の向こうに広がっていた風景を思い出しました。
人工的ではない、長い時間をかけて形作られた自然と人の営み。
どこか“作られすぎていない”感じが、とても心に残っていたのです。

さらに追い打ちをかけたのが、TBSの『世界遺産』という番組でした。
石の街ヴァレッタ、騎士団の歴史、地中海の青。
テレビ越しに映し出されるマルタは、「観光地」というよりも、「物語の舞台」のように見えました。

――ここ、行ってみたいかもしれない。

その気持ちは、思った以上に強く、静かに心の中に残り続けました。


1月のヨーロッパ旅行。不安はなかった?

とはいえ、実際に旅先としてマルタを選ぶまでには、少し迷いもありました。
理由は「1月のヨーロッパ」だったからです。

冬のヨーロッパ旅行と聞くと、まず頭に浮かぶのは、雪、悪天候、そしてフライトの遅延や欠航。
私には、冬の旅行に慎重になってしまう理由がありました。

それは、過去に出発日当日に旅行を断念した経験があったからです。

ラオス旅行の出発日。
その日は雪が降っていて、私は成田空港の搭乗口で、出発を待っていました。
すでに空港には到着し、あとは搭乗するだけ。
「もう旅は始まっている」――そんな気持ちでいた時間でした。

ところが、天候の影響でフライトに遅れが出始め、
ベトナムでの乗り換え時間が確保できないことが確定しました。

そのタイミングで、旅行会社から一本の連絡が入ります。

「このまま行くか、今回は見送るか、決めてください」

突然突きつけられた、二択。
現地到着が大幅に遅れる可能性、行程への影響、不確定な要素。

そして最終的に、今回は行かない、という選択をしました。

空港にいながら、旅に出ないという決断をする――
あの日の少し悔しくて、やるせない気持ちは、今でもよく覚えています。

だからこそ、冬の旅行にはどうしても慎重になってしまう自分がいました。

楽しみにしていた気持ちが、一瞬で行き場を失ったあの日の感覚は、今でもよく覚えています。
だからこそ、冬の旅行には、どうしても慎重になってしまう自分がいました。

「また同じことになったらどうしよう」
「長距離フライトでトラブルがあったら?」

そんな不安が、頭をよぎらなかったと言えば、嘘になります。


それでも冬を選んだ理由 ― オフシーズンの魅力

一方で、コロナ禍が明けてからの海外旅行は、明らかに以前とは違っていました。
航空券もツアー代金も、全体的に高くなり、「気軽に行く」という感覚からは少し遠ざかってしまったように感じていました。

そんな中で目に留まったのが、オフシーズンのマルタ旅行でした。

夏のリゾート地というイメージが強いマルタですが、1月は観光のハイシーズンではありません。
その分、旅行代金は比較的抑えられ、人も少なめ。
「ゆっくり街を歩けるかもしれない」
「落ち着いた雰囲気で世界遺産を巡れるかもしれない」

そう考えると、不思議と不安よりも期待のほうが少しずつ大きくなっていきました。


英語が通じる国、という安心感

もうひとつ、私の背中を押してくれたのが「言語」でした。

マルタ共和国の公用語は、マルタ語と英語。
つまり、英語が通じる国です。

もちろん、英語が完璧に話せるわけではありません。
それでも、「英語でなんとかなる」という安心感は、一人旅においてとても大きな意味を持ちます。

知らない言葉、読めない文字、伝わらない不安。
それらが少しでも減るだけで、旅のハードルはぐっと下がります。

「ここなら、大丈夫かもしれない」

そう思えたことも、冬のマルタを選んだ大きな理由でした。


行ってみたら、想像以上に居心地がよかった

実際にマルタを訪れてみて、最初に感じたのは「ほっとする空気」でした。

空港から街へ向かう車窓。
石造りの建物と、どこまでも広がる青い海。
観光地でありながら、どこか生活の匂いが残っている街並み。

治安もよく、一人で歩いていて不安を感じることはほとんどありませんでした。
夜でも人通りがあり、過剰に緊張せずに街を歩けたことは、想像以上に心を楽にしてくれました。

「旅先」なのに、「住めそう」と思ってしまう感覚。
それは、私にとってとても珍しい体験でした。


冬のマルタは、「静かに自分を取り戻す場所」

観光客で溢れることもなく、必要以上に賑やかでもない。
その静けさが、かえって心地よく感じられました。

忙しい日常から少し離れて、
景色を見て、風を感じて、ゆっくり歩く。

冬のマルタは、そんな時間を自然に与えてくれる場所でした。

「行ってみたら、想像以上に居心地がよかった」

この一言に、私のマルタ旅行のすべてが詰まっているような気がします。

こうして始まった、地中海の小さな島国での6日間。
この先の旅の記録を、少しずつ綴っていこうと思います。

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